投稿 読書 エッセイ

雨と思考と肉じゃがラーメン

土砂降りの中でボクは途方に暮れていた。

傘立てに入れて置いたカサが無くなっていたからだ。

どうやらカサを盗まれたらしい。

「さーて、どうすっかな?」

ボクは病院の軒下で容赦なく降り注ぐ雨の軌跡を見ていた。

思考の始まりだった。

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カサは盗まれたのか?

病院で診察を終え、ボクは薬局へ行くために玄関に立っていた。

何度見ても傘立てにボクのカサは無い。

ボクのカサはコンビニで売っているごく普通のビニール傘だ。

同じ傘立てには他にも似たようなカサがいくつもある。

だが、柄の部分にどれもこれも目印がある。

例えば、シールとか、カラーゴムバンド、かわいい模様のテープなど。

ボクのカサには目印が無かった。

だから盗まれたのだろうか?

ボクは何だかおかしくなってクスっと笑った。

だって、朝からこんな土砂降りなのにカサも持たずに外出したのか?

カサをパクったヤツ、どんだけ生活困ってんだよ。

それならカサは誰かは知らないが、ソイツにくれてやろう。

そう思うと腹も立たなかった。

でも、ボクのカサはほんとうに盗まれたのだろうか?

そそっかしい誰かがカサを間違えて持って行った可能性はある。

コンビニのビニール傘なんて世の中には文字通り捨てるほどある。

間違えてもおかしくは無い。

だけど、それなら代わりに目印が付いていないカサが一本あってもいいはずだ。

だが、それは無い。

目印のあるビニール傘は何本かある。

柄に自分の目印をつけたカサとボクのカサを間違えて持って行った?

可能性はなくは無い。

でも、低いように思う。

カサが盗まれたかどうかを考えていたところで仕方ない。

これから処方された薬をもらいに薬局まで行かなくては。

病院と薬局の間は歩いて30秒程度。

土砂降りの中、上着のフードを頭にかぶって薬局へ走り出した。

雨の中歩くことにするまで

今日、ボクは病院に行くことに決めていた。

手荒れがひどいからだ。

だが、朝から雨だった。

天気予報は一日中雨予報。

だからといって、予定を先送りにしたくない。

窓の外の雨模様を横目にボクはアプリで病院の予約を入れた。

交通手段はどうしよう。

車は家族に使われている。

病院の場所は自宅の最寄駅から一駅のところ。

この一区間はボクにとって大した距離じゃない。

歩くか。

雨だが、歩いていくことに決めた。

コンビニで買ったビニール傘とハーフのレインブーツ。

レインブーツの上に汚れ防止のレッグガードを装着。

上着は登山など、アウトドアで使うレインスーツ兼ウィンドブレーカー。

自分で満足いく装備をして、雨の中へ身を投じた。

ほんとうに久しぶりに雨の中を歩いた。

いつもは車か自転車だから、景色が違って見える。

どこか新鮮な感じがした。

そして、病院で診察を終えて、玄関に立つ。

カサ立てを見る。

カサが無かった。

最適なルートはどれ?

病院と薬局はかなり近距離な為、それほど濡れずにすんだ。

手荒れ用の塗り薬をもらって薬局を出る。

出入り口の軒下で立ち止まる。

時計の針は昼の1時半を回っていた。

病院で待たされたからだ。

家を出る時は病院の帰りにドーナツショップにでも寄るつもりだった。

そこでランチにしようと思っていたのだ。

でも、もうそんな気分ではない。

9月も終わりに近い。

雨のせいか、気温は肌寒く感じた。

カサがないので雨に打たれながら帰ることになる。

上は簡易なレインスーツだが下はチノパンなので雨に当たれば当然濡れてしまう。

しかも、今日は土砂降り。ずぶ濡れ確定。

まずは一度上着を脱いだ。

ショルダーバックを身に着けてからまた上着を着る。

これでバックの中身は濡れないだろう。

中には大事な本が入っている。

濡らすわけにはいかない。

次に考えたことは帰宅ルートだ。

2つのルートが考えられる。

一つは踏切を超えて帰るルート。

こちらは平坦なルートで楽に帰れる。

しかし、踏切で待つハメになれば地獄だ。

この土砂降りの中、いつ来るかわからない電車を待ってジッと耐えることになる。

加えて電車が通り過ぎる時の爆風。

寒いのにあんなイヤな風に当たりたくない。

もう一つは陸橋を登って線路を越えて帰るルート。

こちらは陸橋を越えるので踏み切待ちはない。

ストレスなく行けそうだが、少し遠回りになる。

加えて、この陸橋は結構長いし勾配もある。

間違いなく体力を奪われるだろう。

さて、前者と後者。どちらを選ぶべきか?

歩きながら考えているとアーケード街に入った。

アーケード街の良さが発揮されるのはまさにこんな悪天候の日だろう。

何故、現代でアーケード街が廃れていくのか意味不明である。

アーケード街を歩き、ボクと土砂降りは一時休戦。

少し落ち着いて考えられるようになった。

ルートが決まった。

後者で、陸橋を登るルートで行こう。

やはり、踏切でこの雨の中立ち尽くすリスクを避けたかった。

覚悟は出来ていたはずなのに

陸橋を通る道は少し遠回りだ。

だが、一度選んだ以上覚悟は出来ている。

遠回りの覚悟はあった。

だが、しかし。

パンツまでびしょ濡れになる覚悟は無かった。

郵便局前に差し掛かった頃に異変に気がついた。

上着は簡易なレインスーツ。靴はレインブーツ。

だから雨は防げる。

しかし、腰から太ももにかけてはチノパンなので雨が当たればびしょ濡れである。

パンツまで水が染みるのは仕方ない。

気持ち悪い。だが、どうすることもできない。

そのまま歩き続けて陸橋にさしかかった。

重い足取りで登っていく。

下を電車が駆け抜けていく。

ここでまた異変に気がついた。

レインスーツの下が濡れている。

もはやレインスーツの意味が無くなりつつあった。

どうやら時間が無いみたいだ。

急がねば。

思いつきはむなしく

高架を渡り切った。

信号を待つ間に思いついたことがある。

この近所にラーメン屋があった。

雨に打たれて冷え切った体にアツアツのラーメンはきっと美味いに違いない。

時計の針は昼の2時を過ぎていた。

お腹がかなり減っている。

空腹とずぶ濡れ、疲労でそろそろ参ってきた。

ぜひともラーメンを食べたい。

ずぶ濡れで店内に入ることに罪悪感はあるが、理屈抜きで許して欲しかった。

あと少し、あと少しでラーメン屋に着く。

そして・・・。

準備中の看板。

何故だ!今日は休みの日ではないだろう!

しかも、余裕で営業時間内だ。

時計を見た。2時30分

そうか、この店は2時になると1回閉店するのだ。

そして、5時にまた開店する。

丁度、営業時間の空白にボクはたどり着いてしまったのか。

疲労感が一気に増していくのを感じる。

雨は容赦なくボクを叩きのめした。

だが、このまま叩きのめされるボクじゃない。

物事の本質を見ろ!

ボクは今どうしたいんだ?

そうだ、アツアツのお昼ご飯を食べたいのだ。

ラーメンへの執着なんて捨てろ!

あと120歩も歩けばスーパーがあるじゃないか。

ボクはすぐに気持ちを切り替えて、スーパーに行く。

入店。

寒っ!

スーパーの店内はエアコンと、生鮮食品の冷蔵庫のおかげでかなり冷えている。

雨で冷えた体にさらに追い打ちをかける寒さだ。

もうそんなに時間は無い。早く食材を選ばねば。

総菜コーナーで弁当を見た。

うーん、生姜焼き弁当もいいよね。

なんてブツブツいっていると近くのインスタントラーメンコーナーに目が止まる。

袋麺が5個セットで半額になっていた。

生姜焼きか?ラーメンか?

寒さも忘れてボクは迷った。

しばらく微動だにせず考えて、そして結論。

ラーメンにしよう。

もともとの方針はラーメンだったじゃないか!

レジで5袋のラーメンを買って台に行く。

気がついた。エコバックを忘れたことに。

だが、平気だ。

家はもう近い。すぐそこだ。

袋麺が雨に濡れたって、品質に問題はない。

エコバックは忘れたが、大事なものは何も失っていない。

ボクは五袋のラーメンを大事に抱えて家に帰った。

遅いお昼をアツアツに頂くには? 

帰宅したのは昼3時前。

まずは濡れた衣服を脱いで着替えた。

全身ずぶ濡れなので全裸になるしかない。

そして、新しい下着と部屋着に着替えた。

さあ、作ろう!アツアツのラーメンを。

遅いお昼をアツアツに頂こうじゃないか。

キッチンで着々と準備しながら考える。

ラーメンの具は何にしよう?

簡単なものがいいな。

冷蔵庫を物色した。

昨夜の残り物の肉じゃがが視界に飛び込んできた。

イメージしてみる。

肉じゃが=アツアツ

ラーメン=アツアツ

アツアツ+アツアツ=Wアツアツ。

遅いお昼のメニューは肉じゃがラーメンになった。

袋麺を普通に調理して。

電子レンジで肉じゃがをチン。

出来上がったラーメンの上に肉じゃがをぶちまけた。

出来たぞ、Wアツアツ肉じゃがラーメン!

確かにハフハフ言うぐらいのアツアツ感だ。

ずぶ濡れでさまよった体が温まっていくのがわかる。

だがしかし。

肉じゃがとラーメン、それぞれ別々に食べるべきだと感じた。

それぞれはおいしいのだが、味がケンカしてお互いのいいところを殺している。

これではダメだ。

次から絶対にやらない。

そう心に決めた。

雨は時に思考を連れて来る

アツアツのラーメンを食べて落ち着いた。

すると途端に疲れがどっと出て来た。

少し横になろう。

ボクは食べてすぐに畳の上で大の字になった。

窓の外からは雨音。

全然、止む気配はない。

雨音の調べにうとうとし始めた。

遠のく意識の中で、カサを盗られてからのことを思い返していた。

そもそも、カサは盗まれたのか?考え。

カサを盗った見知らぬ人の境遇を思い。

たかだか電車で一駅の帰宅ルートを真剣に考えた。

この国のアーケード街について、その将来を危惧して。

ラーメン屋の前で落胆しつつ、気持ちを切り替えた。

スーパーの中で我を忘れて袋麺か生姜焼き弁当かを迷った。

家に帰って来てからはアツアツのラーメンを食べたくて、より一層アツアツに出来ないかを考える。

そして、新しい試みである肉じゃがラーメンについて味にジャッジを下した。

全てはカサを盗まれて、雨をまともにその体に浴びたことから始まったように思う。

雨に打たれるということ。

もしかしたら、それは思考の入口なのかもしれない。

雨は思考を連れて来る。

そんなどうでもいいことを考えながら、ボクはお昼寝することにした。

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  • この記事を書いた人

むにゅひこ

普段は楽しく用務員さんをしているアラ環オヤジです。趣味は釣りと登山、下手な料理、読書、DIY、ソロキャンプです。このブログでは用務員さんの仕事で見つけたDIY、自分が適応障害だった時の経験、趣味のこと、何気ない日常のことなどを雑談感覚で書いています。また、自分がした買い物で「いい買い物をしたな」という情報を積極的にみなさんに発信しています。暇つぶしに雑談を楽しむようなブログがコンセプトです。

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